歌劇『イーゴリ公』日本公演


これまでの日本公演

日本での『イーゴリ公』の上演は、2015年現在までに7度行われました。

スラブ歌劇

1965年 9月16日(木)東京文化会館大ホール
       9月21日(火)東京文化会館大ホール
       9月23日(木)東京文化会館大ホール
       9月27日(月)東京文化会館大ホール
      10月 3日(日)大阪フェスティバルホール
      10月 6日(水)大阪フェスティバルホール
指揮/ダノン、ホルヴァット、マタチッチ
演奏/NHK交響楽団
振付/フォーキン
プロローグ付3幕

スラブ歌劇(旧ユーゴスラヴィヤ、ザグレブ国立劇場合唱団)の日本公演が日本での『イーゴリ公』の初演になります。
この時の上演は第3幕を省略した初演版でした。
NHK放送開始40周年記念事業だったそうで、総合放送、教育放送、FMラジオ各局でハイライトや全幕を放送しまくったそうです。

◆この公演のプログラムをご好意でお譲りいただくことができました。
改めてお礼申し上げます。(2015/5/5)

ボリショイ劇場・1970年

1970年8月25日(火)大阪フェスティバルホール
      8月26日(水)大阪フェスティバルホール
      9月 5日(土)東京文化会館大ホール
      9月 6日(日)東京文化会館大ホール(昼・夜)
演出/トゥマノフ
原演出/バラトフ
指揮/シモノフ、エルムレル
演奏・合唱・バレエ/ボリショイ劇場
振付/ゴレイゾフスキイ(未確認)
3幕6場

1970年の日本公演はプログラムによると、
序曲、第1幕(初演版のプロローグを第1場、第1幕の第1場、第2場をそれぞれ第2場、第3場に)、
第2幕(初演版の第2幕)、第3幕(初演版第3幕のオヴルールのレチタティーヴォからを第1場とし、
初演版第4幕を第2場として上演)という構成。
この時はどうやらエルムレル指揮の全曲盤録音時のメンバーがほぼ来日したようです。

◆この公演のプログラムをご好意でお譲りいただくことができました。
改めてお礼申し上げます。(2008/2/21)

ボリショイ劇場・1995年

1995年6月27日(火)18:30神奈川県民ホール
      6月29日(木)18:30NHKホール
      6月30日(金)18:30NHKホール
      7月 1日(土)18:30NHKホール
演出/ポクローフスキイ
指揮/ソローキン
演奏・合唱・バレエ/ボリショイ劇場
美術/レヴェンターリ
振付/ゴレイゾフスキイ
プロローグ付3幕6場。

序曲なし、プロローグ、第1幕(初演版の2場を3場に分割)、第2幕(第1場、初演版第4幕のヤロスラーヴナの嘆きが冒頭へ。
続いて第2幕のイーゴリのアリア、そしてヴラヂーミルとコンチャコーヴナの二重唱をはさんでイーゴリとコンチャークの二重唱。
第2場は初演版第4幕の農民の合唱から大団円まで。)
第3幕(初演版第2幕からイーゴリのパートを抜いた部分。
「だったん人の踊り」がクライマックスに。)
レヴァショーフがスコアを整備し、ポクローフスキイが演出したこの版では、ルーシとポーロヴェツの融合に焦点を当て、物語に一貫性を持たせようとの試みが見られました。

◆「ロシア国立アカデミー・ボリショイ劇場」1995年日本公演。
プログラムではラザレフが指揮者として挙げられていますが、日本公演の時にはボリショイ劇場を辞任しています。
◆横浜公演ではソローキンの指揮でネステレンコがコンチャークを歌いました。
◆ポクロフスキイによる新演出では、イーゴリ公の帰還後にポーロヴェツの陣営でヴラヂーミルとコンチャコーヴナの婚礼として「だったん人の踊り」が繰り広げられます。
そのため終幕でイーゴリ公の出番はなく、残念ながら主役の影が薄く感じられました。(2007/12/16)

ムソルグスキイ記念ミハイロフスキイ歌劇場

2007年12月 5日(水)18:30中京大学文化市民会館オーロラホール
      12月 6日(木)18:30大阪フェスティバルホール
      12月10日(月)18:30武蔵野市民文化会館
      12月12日(水)18:30Bunkamuraオーチャードホール
      12月13日(木)18:30東京文化会館大ホール
演出/スタニスラフ・ガウダシンスキイ
主席指揮/アンドレイ・アニハーノフ
演奏・合唱・バレエ/ムソルグスキイ記念ミハイロフスキイ歌劇場
振付/ゴレイゾフスキイ
全2幕5場

第3幕は省略。
幕間を減らして、第1幕を従来のプロローグと第1幕を合わせた3場に、第2幕を従来の第2幕と第4幕を合わせた2場で構成。
いくつかの曲が短縮、またはカットされダイジェスト版の趣があります。
4幕最後の合唱は従来の歓迎の合唱ではなく、プロローグ最後の出陣の際の合唱が流用されました。

◆「ムソルグスキー記念レニングラード国立歌劇場」、 「ムソルグスキー記念サンクトペテルブルク国立アカデミー歌劇場」とも紹介される通称「マールィ歌劇場」の公演です。
◆構成やバレエの振付から、ボリショイ歌劇場の上演に近い形式です。
◆衣装は時代劇風でしたが、赤と青の照明を効果的に使った簡素化された舞台が印象的でした。
◆本物の馬は登場しませんでした(ボリショイやマリインスキイでは舞台に本物の馬が上がり、歌手が騎乗して登場するので)(2007/12/15)

サンクトペテルブルク・マリインスキイ歌劇場

2008年2月1日(金)18:30NHKホール
      2月2日(土)18:00NHKホール
      2月3日(日)14:00NHKホール
芸術総監督・指揮/ヴァレリイ・ゲルギエフ
演奏・合唱・バレエ/サンクトペテルブルク・マリインスキイ歌劇場
演出/エヴゲーニイ・ソコヴニン(1954年)
新演出/イルキン・ガビトフ(2001年)
振付(ポーロヴェツ人の踊りと合唱)/ミハイル・フォーキン(1909年)
プロローグ付き4幕・上演時間/3時間20分(休憩1回)

2007年12月の北京公演で上演された最新版(2007年ゲルギエフ改訂版)が上演されました。構成は次の通りです。
・プロローグ「プチーヴリの広場」
・序曲
・第1幕「ポーロヴェツの陣営」(初演版の第2幕)
・休憩
・第2幕「ポーロヴェツの陣営」(初演版の第3幕から「ポーロヴェツ(だったん)人の行進」;
 ファリークの校訂によって加えられた初演版にはないイーゴリ公のレチタティーヴォ;
 オヴルールのレチタティーヴォ;イーゴリ公、ヴラヂーミル、コンチャコーヴナの3重唱;終曲)
・第3幕第1場「プチーヴリの城壁」(初演版第4幕のヤロスラーヴナの嘆き;農民の合唱)
・第3幕第2場「(プチーヴリにある)ガーリチのヴラヂーミル公の館の中庭」(初演版第1幕第1場)
・第4幕「ヤロスラーヴナの館の居室」(初演版第1幕第2場)
 ポーロヴェツの来襲の場面で第2幕で逃亡し帰還してきたイーゴリ公が姿を見せて幕が下ります。

◆「マリインスキー・オペラ」2008年日本公演。
ソ連時代は「レニングラート・キーロフ劇場」と呼ばれていたオペラとバレエの殿堂の引越し公演です。
◆DVDや放送でマリインスキイ劇場版の『イーゴリ公』をご覧になった方にはお馴染みの舞台背景、装置、衣装が再現され、バレエはバイムラードフとラサーディナが登場し、 見応えも聴き応えもある舞台でした。(2月1日公演)
◆「だったん人の踊り」が第1幕で披露されるため、聴き所が多いにも関わらず後半の印象がやや散漫になってしまうこと、 終幕でのイーゴリ公の登場が唐突すぎること等を考えると、今回の構成も過渡的、実験的なものに感じられました。
◆また今回の構成順では、グザーク・ハーンが2度プチーヴリを襲撃する勘定になります。
◆プロローグでの出陣の場面では馬が2頭登場し、臨場感を盛り上げました。(2008/02/02)

ウクライナ国立オデッサ歌劇場

2012年1月13日(金)18:00武蔵野市民文化会館
      1月14日(土)16:00Bunkamuraオーチャードホール
      1月28日(土)15:00兵庫県立芸術文化センターKOBELKO大ホール
演出/スタニスラフ・ガウダシンスキイ
指揮/ユーリィ・ヤコヴェンコ
演奏・合唱・バレエ/ウクライナ国立オデッサ歌劇場・ドネツク歌劇場
振付/不明
全2幕5場・上演時間/2時間50分(20分の休憩1回を含む)

第3幕は省略。
幕間を減らして、第1幕を従来のプロローグと第1幕を合わせた3場に、第2幕を従来の第2幕と第4幕を合わせた2場で構成。
いくつかの曲が短縮、またはカットされダイジェスト版の趣があります。
4幕最後の合唱は従来の歓迎の合唱ではなく、プロローグ最後の出陣の際の合唱が使用されました。
このあたりにリムスキイ-コルサコフらの補筆による初演版を再検討し、 ボロディンの原曲や構想に迫ろうという狙いがあるように感じました。

◆ウクライナ国立ドネツク歌劇場との共同公演で、 歌手と演奏が両劇場の混成、ダンサーはほぼドネツク歌劇場のメンバーのようです。
◆2007年のムソルグスキイ記念ミハイロフスキイ歌劇場の日本公演と同じくガウダシンスキイが演出しているため、 ロシア風の鐘の音を効果的に使う等、似た上演内容になっています。
◆ボリショイやマリインスキイといった大劇場の公演と較べると、 合唱、バレエ共に小編成でこじんまりとした印象の中、大河を描いた背景が現地の雰囲気を伝えていました。
◆バレエに関しては、チラシやプログラムに載っている画像はオデッサ歌劇場での2011年の公演 (ゴレイゾフスキイ版・動画サイトで試聴可能)を使用していますが、今回の日本公演で踊られた振付は従来の版とは(フォーキンともゴレイゾフスキイとも) 違うもので、技巧的で見応えがありました。
ダンサーの多くがドネツク歌劇場から来ているようなので、そちらの振付でしょうか?
どなたの振付かご存知の方は、是非お知らせください。
◆1月14日の公演では、序曲つきの上演でポーロヴェツの娘たちの合唱は省略、ヤロスラーヴナの嘆きもほぼ削られました。(2012/01/17)

ブルガリア・ソフィア国立歌劇場

2015年10月11日(日)15:00東京文化会館大ホール
      10月15日(木)18:30兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
      10月17日(土)17:00愛知県立芸術劇場大ホール
芸術総監督・指揮/グリゴール・パリカロフ
演奏・合唱・バレエ/ブルガリア・ソフィア国立歌劇場
演出/プラーメン・カルターロフ
振付(ポーロヴェツ人の踊りと合唱)/アセン・ガヴリロフ
プロローグ付き2幕・上演時間/3時間(休憩1回)

1995年のポクロフスキイ演出によるボリショイ劇場の日本公演同様、「だったん人の踊り」で大団円を迎えるヴァージョンです。構成は次の通りです。
・序曲
・プロローグ「プチーヴリの広場」
・第1幕第1場「ガーリチのヴラヂーミル公の館の中庭」
・第1幕第2場「ヤロスラーヴナの館の居室」
 ここまで初演版と同じ構成で、いくつかの曲が短縮されています。
・休憩
・第2幕第1場「ポーロヴェツの陣営」(ポーロヴェツ人の娘たちの合唱;コンチャコーヴナのカヴァティーナ;
 ヴラヂーミル・イーゴリェヴィチのカヴァティーナ;ポーロヴェツ人の行進;二重唱;イーゴリ公のアリア;
 オヴルールのレチタティーヴォ;ポーロヴェツ人の行進;コンチャークのアリア;イーゴリ公とコンチャークのレチタティーヴォ)
 初演版の第2幕にほぼ沿う構成ですが、「ポーロヴェツ人の娘たちの踊り」が省略されているのが特筆すべきところです。
・第2幕第2場「プチーヴリの墓地」(初演版第4幕のヤロスラーヴナの嘆き;レチタティーヴォと二重唱)
 「農民の合唱」が削られました。初演版の終盤の場面もカットされています。
・第2幕第3場「ポーロヴェツの陣営」(初演版第3幕の三重唱を二重唱に改変したもの;終曲;ポーロヴェツ人の踊り)
 今回の上演でもっとも変更が大きかった部分です。暗転時の曲は初演版第3幕の「見張りたちの合唱と踊り」
 脱走に失敗したヴラヂーミル・イーゴリェヴィチとコンチャコーヴナの婚礼にイーゴリ公とヤロスラーヴナが訪れて大団円に。

◆「ブルガリア国立歌劇場」2015年日本公演。
ブルガリアの首都ソフィアを本拠地に構えるソフィア国立歌劇場の引越し公演です。
◆「従来のイーゴリ公を英雄視するフィナーレはこの歌劇にふさわしくない、 民族間の和解をヴラヂーミルとコンチャコーヴナの婚礼で表現する」というカルターロフの解釈で構成に大胆な変更が加えられました。
曲の省略、短縮の他に、歌詞の変更もいくつかありました。
◆イーゴリ公はポーロヴェツの陣営から脱出してプチーヴリに帰還しますが、 「再び戦に出る」という傲慢をヤロスラーヴナと戦没者遺族に否定され、うちひしがれます。
◆簡素な舞台装置ながら、高さを効果的に利用し、奥行きを感じさせました。また、これによってビリービン風の美しい衣装が引き立ちました。
◆バレエはフォーキン版を元にしたガヴリロフによる新しい振付です。(2015/10/11)


ライブビューイング

METライブビューイング 2013−14

2014年3月1日(土)MET上演・2014年9月DVD、BD発売
      4月5日(土)〜11日(金)日本上映
演出・美術/ドミートリイ・チェルニャーコフ
指揮/ジャナンドレア・ノセダ
演奏・合唱・バレエ/メトロポリタン歌劇場(MET)
振付/イツィク・ガリリ
プロローグ付き全3幕・上映時間/4時間15分(休憩2回を含む)

casts
イーゴリ公/イリダール・アブドラザーコフ
ヤロスラーヴナ/オクサーナ・ディーカ
ヴラヂーミル/セルゲイ・セミシュクール
ガーリチのヴラヂーミル/ミハイール・ペトレンコ
コンチャーク/シュテファン・コツァーン
コンチャコーヴナ/アニタ・ラチヴェリシヴィリ

チェルニャーコフの新演出
・プロローグ「プチーヴリ」(初演版通り、序曲はなし)
・第1幕「真っ赤な芥子畑(イーゴリ公の心象風景)」(初演版の第2幕)
・第2幕「プチーヴリ」(初演版の第1幕第2場に第1場をはさんでいる他、ガーリチのヴラヂーミル一派の乱入を追加)
・第3幕「プチーヴリ」(初演版第4幕に第3幕の三重唱とイーゴリ公の初演版にないレチタティーヴォと終曲を加えてアレンジ)
◆初演版の第3幕をはじめ、リムスキイ-コルサコフとグラズノフが作曲した部分はほぼ大胆に省略されています。
「ポーロヴェツ人の娘たちの踊り」や「ポーロヴェツ人の踊りと合唱」、「ヤロスラーヴナの嘆き」など、 一般的に切り詰められがちな曲もフルヴァージョンで演奏している他、全体的にゆったりした演奏です。
◆戦に敗れたイーゴリ公が真っ赤な芥子畑に埋もれるスチール(撮影/ミカエラ・ロサート)が印象的。
スチールでは兜と鎖帷子が写っていましたが、実際に上演されたプログラムでは近現代の時代設定でした。
◆斬新かつ衝撃的な解釈で、今後の『イーゴリ公』の上演に影響を与えるのではないかと思われます。
プロローグと第1幕は続けて上演され、幕間は幕や紗幕に断片的な映像が投影されました。
まず、「英雄は戦争に出ることで自己から逃避する」という一文が写しだされ、作品がイーゴリ公の内面を扱うことを印象付け、 モノクロの映像で、歌劇の中では語られないイーゴリ公が率いる軍が全滅し、イーゴリ公自身も重傷を負い一命をとりとめたことが示唆されます。
初演版の第2幕はここではイーゴリ公の幻覚として描かれます。(ここからは個人的な解釈を含みます。)
勝機のない戦争に出ざるをえなかったイーゴリ公は悔恨を歌いますが、その自我も最後には崩れます(ポーロヴェツ人の踊り)。
プチーヴリの場面では、ガーリチのヴラヂーミルがイーゴリ公の留守を預かるヤロスラーヴナに譲位を迫りますが、 その乱暴狼藉に我慢できなくなった民衆と衝突して殺されてしまいます。
初演版の狂言回しのスクラーとイェローシカはガーリチのヴラヂーミルの腹心の部下に出世し、 ヴラヂーミルのクーデターに積極的に関与しました。
ポーロヴェツの攻撃で陥落したプチーヴリに帰還したイーゴリ公は民衆の前で激しい懺悔をし、民衆はそれを受け入れてイーゴリ公を歓迎します。
しかし、イーゴリ公は以前のように公として祭り上げられることを拒否し、贖罪と鎮魂の気持ちからプチーヴリの復興にとりかかるのでした。
◆初演版にない追加楽曲は、近年のマリインスキイ歌劇場やボリショイ歌劇場でも用いられているものです。
「イーゴリ公のレチタティーヴォ(モノローグ)」や「ガーリチのヴラヂーミルのアピール(仮称)」はパーヴェル・ラムの研究によってボロディンの手稿から再現されたもので、 「ガーリチのヴラヂーミルのアピール」の原曲はボロディンの歌曲『暗い森の歌』です。
全幕の最後に追加された5分強の楽曲はオペラ・バレエ『ムラーダ』のためにボロディンが作曲してお蔵入りになっていた「ドン河の氾濫」の場面で、パーヴェル・スメルコーフが編曲した模様。
『ムラーダ』は当初、キュイ、ミンクス、リムスキイ-コルサコフ、ムソルグスキイとの合作で計画された作品ですが、頓挫し、後にリムスキイ-コルサコフが個人の作品として完成させました。
ボロディンの担当部分は物語の終曲で、現世で結ばれなかったタイトルロールと恋人がドン河の氾濫によってあの世で結ばれるという内容です。
◆なお、物語の筋が追いやすい良い字幕がありましたが、実際に歌われたロシア語の歌詞は特に変更もなく部分的に古めかしいものだったので、 近現代の時代設定と微妙にそぐわない印象がありました。
また、映像の使用など、視覚効果を多用しすぎている印象も残りました。(2014/04/13)


講演会

マリインスキー・オペラ来日記念講演

『ロシア・オペラの世界 オリエンタリズムからロシア・アヴァンギャルドまで』
2008年1月〜2月のマリインスキー・オペラの日本公演を記念して「マリインスキー・オペラ友の会」の主催による講演会が開催されました。
日時/2008年1月12日(土)
場所/東京国際大学大学院 早稲田サテライト 5階マルティ・ホール

セッション1 イーゴリ公・1 東洋と西洋の狭間(梅津紀雄先生)
セッション2 イーゴリ公・2 ディアギレフのロシア・バレエ団と
               ポーロヴェツ(だったん人)の踊り(鈴木晶先生)
セッション3 ホヴァーンシチナ ロシアの歴史ドラマ・編曲と演出の違いから(東条碩夫先生)
セッション4 3つのオレンジへの恋 ポップなロシア・オペラ(森田稔先生)

◆今回のマリインスキー・オペラの日本公演で上演されるロシア・オペラ3作品を主題に、様々な角度から踏み込んだ本格的な講演会でした。
◆セッション1では、ボロディンの時代のロシアから見たオリエンタリズムとディアギレフの時代のパリから見たオリエンタリズムとの違いや、 『イーゴリ公』におけるヴァージョンの問題、ヴァージョン間の違いについて映像を見ながら興味深いお話を伺いました。
◆セッション2は20世紀初頭のバレエ界に新しい衝撃と可能性を与えた ディアギレフのロシア・バレエ団(バレエ・リュス)に主眼をおいた楽しい講演でした。
「ポーロヴェツ人の踊り」がポップスとして享受されている参考映像としてミュージカル『キスメット』の一部が上映されましたが、こちらもなかなか面白そうです。
◆セッション3は『イーゴリ公』の時代より500年ほど後の時代の史実をもとにしたムソルグスキイの『ホヴァーンシチナ』がテーマです。
『ホヴァーンシチナ』もボロディンの『イーゴリ公』同様に未完成のまま作曲者が亡くなったため、 リムスキイ-コルサコフが補筆し上演できる形に編曲しましたが、その後、ショスタコーヴィチ、ストラヴィンスキイらも編曲し、いくつかのヴァージョンが存在することになりました。
今回の講演では豊富な映像や音源を聴き較べながら、それぞれの編曲者の演出意図やその時代背景、 イデオロギーにも話が及び、個人的には正直ややこしくてわかりにくいと感じていた『ホヴァーンシチナ』を読み解き、聴き楽しむ手懸りをいただきました。
◆セッション4で扱われたのはプロコフィエフの『3つのオレンジへの恋』。
きれいな旋律のお伽話をプロコフィエフは歌劇を含めた演劇の型を無視した破格の作品として書きました。
観劇に一言も二言もある観客が舞台に介入し、主人公の冒険を手伝う超ご都合主義。
マリインスキーの最新の映像で愉快な舞台を一足先に楽しみました。
◆どのセッションも今回のマリインスキーの日本公演で上演される演目の見所、聴き所を取り上げ、大変有意義な講演会でした。(2008/02/02)




ロシア語のカナ表記について

ロシア語は日本語では使わない音がたくさんある言葉です。
正確にロシア語を日本語のカナで表現することはできませんが、なるべくロシア語に近い表記を試みてみました。
また、ボロディン、ボロヂーン、ボロジン(ロシア語により近い表記ではバラヂーン)、 ロシア、ロシヤ(同様にラシーヤ)など、慣用されている表記や揺れのある表記も、 検索のしやすさを考えて適宜併用しています。統一感に欠ける点はご了承ください。



著作権について

このサイトでは、ボロディンの作詞による歌劇『イーゴリ公』の歌詞(ロシア語)の一部、 及び、『イーゴリ公』のソフトのジャケット類と関連する書籍の表紙の画像、 そしてビリービンによる『イーゴリ公』関連のイラストレーションの画像を掲載しています。
以上のロシア語歌詞、画像の掲載に何らかの著作権上の問題がありましたら、ただちに掲載を取りやめます。
また、掲載している『イーゴリ公』の日本語訳は管理人Vindobonaによるものです。(2006/03/15)


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